『堕落論』、『白痴』などで終戦期に活躍した無頼派の作家・坂口安吾。国語の教科書でもお馴染みです。そんな坂口安吾が、自身のハゲ頭をネタにした短編を書いていたのをご存じでしょうか。
その名もズバリ『無毛談 ―横山泰三にさゝぐ―』。
本作は友人でもある当時の政治風刺漫画家・横山泰三に向けたエッセイで、安吾自身のハゲ観も述べられている貴重な一作。安吾は横山泰三・隆一兄弟のハゲについて以下のように紹介しています。
そして、安吾も自分が若ハゲであったことを明かします。
安吾は自身のハゲについて以下のように説明しています。
また、女性にハゲを指摘されたときの辛さについても赤裸々に語っています。
良い言葉です。2017年はこの言葉を胸に、明るく楽しく生きていきたいと思います。
その名もズバリ『無毛談 ―横山泰三にさゝぐ―』。
本作は友人でもある当時の政治風刺漫画家・横山泰三に向けたエッセイで、安吾自身のハゲ観も述べられている貴重な一作。安吾は横山泰三・隆一兄弟のハゲについて以下のように紹介しています。
御兄弟、ベレをかぶっていらっしゃる。さて、おやすみという時にも、そろってベレをおとりにならぬ。これもタシナミの存するところで、御兄弟、若年にして、毛が薄い。やはりハゲは当時から男性の代表的なコンプレックスだったんですね。なかなか帽子を取らないというのも、現代と全く同じです。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
そして、安吾も自分が若ハゲであったことを明かします。
この心境は、悲痛である。私もよく分るのだ。なぜなら、私も亦、若年にして、毛が薄かった。安吾曰く「若ハゲは悲痛」。ハイここテストに出ますよー。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
安吾は自身のハゲについて以下のように説明しています。
私のハゲは脳天、マンナカから薄く徐々に円形をひろげるという見た目にカンバシカラヌ最下級品であるけれども、本人の目には見えないという強味がある。いわゆるカッパハゲ・てっぺんハゲだったんですね。安吾も若い頃はハゲを指摘される度に怒っていたそうで、対応に苦慮していたことも明かしています。
私のハゲが発見されたのは、三十四か五ぐらいの時で、たしか大井広介がどこかの飲み屋で飲んでる最中見つけたように記憶している。このとき、私が怒髪天をついて、バカ言え、ハゲてるもんか、と云って怒った。それで後日まで笑い話になったけれども、これは怒るのが当り前というものだ。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
若年にしてハゲると、オヤ、ハゲましたネ、と誰しも一度は言うものである。百人の知人があれば、百ぺん言われるもので、もう、バカ云え、とは言うわけに行かない。非常に卑屈になるもので、ニヤニヤするのもミジメであるし、ウム、ハゲタ、見事にハゲました、と云って肩をそびやかすのは、なお悲しい。要するに、どんな応対の仕様もない。どうやってみてもミジメで哀れであるから、いっそ怒るのが一番立派のようであるが、ハゲましたネ、と云われたるカドにより怒って絶交するというのも、あさましい話である。わかる、わかりすぎる。ハゲが気になり始めたあの頃、イジられると反応に困りましたよね。怒るのも大人げないし、あっさり認めるのもプライドが傷つくし、どうしたらいいものかと悩んだものです。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
また、女性にハゲを指摘されたときの辛さについても赤裸々に語っています。
男の方はまだいゝのだが、アラ、おハゲになってるわネ、などゝ女の子に言われるのは、五臓六腑に、ひゞく。だから、女の子のいる飲み屋へ行くと、女性にハゲを指摘されると「五臓六腑に、ひゞく。」さすが大作家・表現力が段違いです。そんな安吾も年を重ねるごとにハゲが気にならなくなったそう。まさに悟りの境地ですね。
「キミ、キミ、僕はもうハゲました。ホラ、この通り」
挨拶の代りに頭をだしてみせる。アラ、ホント、ずいぶんハゲたのね。ウム、ハゲちゃった、アハハハハ、などゝバカみたい。これを逆に女の方からやられると、ベソをかきそうな顔になる始末であるから、仕方がない。無事関門を通過して、ホッとしながら酒を飲みだす段どりとなる。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
もう、ちかごろはハゲぐらいの問題じゃなく、もう、お年ねえ、などゝ決定的なことを言われるようになったから、ハゲもなんでもなくなってしまった。最後に安吾は、友人の横山がハゲ治療に行くということをサラッとバラした上で、ハゲだとイジられるうちが華だとエールを送っています。
はじめてハゲを見つけられた時は、合せ鏡などをして、自分のハゲをしらべてみたことも一度はあったが、まったく醜悪なものであるから、二度と再び見参に及んだことはなく、今ではどれぐらいのハゲになったか、もっぱら人まかせにしておくのである。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
泰三画伯は近々御結婚あそばす筈で、新婚記念に名古屋医大へハゲ退治に出向く由、三十二歳ともあれば、ムリもない。「毛が生えなくとも、悲しむべからず。」
(中略)
名古屋医大へハゲ退治にでかけるという泰三画伯は、つまり、人生がまだ花であるというシルシであろう。オヤ、ハゲましたね、などゝ言われるうちは花なのである。毛が生えなくとも、悲しむべからず。
坂口安吾 無毛談 ――横山泰三にさゝぐ―― 青空文庫
良い言葉です。2017年はこの言葉を胸に、明るく楽しく生きていきたいと思います。